2014年11月05日

AOAの新曲を担当する「勇敢な兄弟」の作風分析 「象の王国」と組む時 &「星たちの戦争」と組む時

ブログ主にとっての
11月の大きな話題は、AOAと新生ハロビがブレイブサウンド
カムバックすることです。

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今回は、曲作りを担当する「勇敢な兄弟」について語ろうと思います。

何度も書きましたが
私はアイドルファンと言うよりも、映画ファンであり、
その習性として、裏方やクリエイターでK-POPを追いかける傾向にあります。俳優女優で追うよりも、監督や脚本家で追った方が成功率も高い。
クリエイター中心で追いかける魅力は、その作品に
強烈な作家性
を見いだせることです。
例えば、クライムサスペンスというジャンルの映画作家ならば
同じテーマを手を変え品を変え、何度も魅了してくれる。
これが楽しくて仕方ない。そして、中には失敗作もあるが
その原因は何だったのか、組んだ女優かプロデューサーか・・・・
まさに失敗作を語る楽しみすら見いだせるのです。

K-POPに於いて「勇敢な兄弟」作曲によるブレイブサウンドに
魅了されて久しく、今やブレイブサウンドファンというより
マニアに近いかもしれません。
そこで、今回のテーマは「象」と組む時と「星」と組む時。

ブレイブサウンドに特別興味のない方はもちろん
ブレイブサウンドが好きという方でも
「どれも似たような曲に聞こえる」と言うことがあります。
確かに初期の作品はそうかもしれませんが、
彼が作曲家として幅を広げだした2010年以降は、よ〜く聞いてみると
上手く色分けする技を使っているのがわかります。

勇敢な兄弟の作詞、作曲、編曲の表示を注意深く見てみると
主なものに

용감한 형제(勇敢な兄弟)あるいはBrave Brothersとして単独
용감한 형제(勇敢な兄弟) + 코끼리왕국(象の王国)
용감한형제(勇敢な兄弟) +  별들의 전쟁(星たちの戦争)

の3種類があります。
(他に「トライパク」や「チャクン」もありますが、今回は省略)
코끼리왕국(象の王国)
별들의 전쟁(星たちの戦争)


この奇妙な名前の人たちは一体何者なのでしょう。
テーマは、ブレイブサウンドにどういう影響を与えているか。
そこには
色分けの秘密と、深みを持たせるための仕掛けがあったのです。

ブレイブサウンドの「象」と「星」の違いって何なのでしょう??

以下、
『象の王国』を「象」
『星たちの戦争』を「星」と略します。


勇敢な兄弟のプロフィールについて話すと長くなるので、
要点だけ簡単に。

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カン・ドンチョルは、元々歌手志望でした。
兄のカン・フクチョルとともに二人組の「ブレイブブラザーズ」として
黒人ラップ系の歌手として売り出すことを夢見ていました。
所属事務所はYGエンタテイメント。
ところが、兄のフクチョルは兵役に取られ、
二人組の歌手の道は、滞ることになりました。
その間、事務所はドンチョルに作曲を勧めました。
あくまで「副業」のつもりでしたが、これが評判よく
仕事も多く舞い込むようになりました。
(コンビ名の「勇敢な兄弟」はそのまま、
ドンチョルの作曲家名となりました。)

2008年1月、ドンチョルはYGを独立して
自ら「ブレイブエンタテイメント」という会社を設立。
アーティストを一から育成して
自分の思う通りのプロデュースをスタートさせたのです。
そして、2008年9月のソン・ダムビ(손담비)「미쳤어(Crazy)」などが大ヒットとなり、スター作曲家となりました。

ところが、韓国における売れっ子作曲家には宿命的な
ジレンマをかかえることになります。
韓国でのCD産業は衰退し、デジタル音源が中心です。
一曲の収入は非常に少ないため、より数多くの曲を作って
商売を成立させるしかありません。
いくらドンチョルが優れた才能の持ち主でも
あまりに多作となれば、ネタ切れは避けえません。

初期の彼の作品は初々しく、好きな曲がありますが、
マニアの私ですら「似たような曲が多い」と感じます。
なぜなら
@歌手としての未練が残っているため、音楽の世界が狭い
A共同作曲家がいないため、ワンマンで多作していかなければならないので「ネタ切れ」が避けられない


例えばこの二曲。

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アフタースクールレッドの「Into The Night Sky」

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シスターの「니까짓게 (How Dare You)」

出だしを聴いてみてください。
(聴きやすいように「頭出し」をしてあります。)
Into The Night Sky
How Dare You

似ているどころか
メロディーラインが全く同じですね(笑)

BE設立後の初期の曲で、私が好きなのは
アフタースクールの「DIVA」「AH」「ノッテムネ」あたりです。
2008年〜2009年の作品群は、初々しく、
作曲家ドンチョルの原点がよく表れていますが、
ラテン、タンゴ、ジャズや映画音楽好きの私としては
曲の幅の広い、現在のブレイブサウンドの方が、
より好みであると言えます。

会社を設立した当時、後に作曲作業に加わることになる
「象」「星」そして、エレクトロボーイズのチャクンなどは
当然、歌手志望です。設立後、二年ほどはドンチョル単独で
ひたすら多作と戦っていました。
弟子たちが、売れる見込みもないまま二年ぐらいたつと
彼らもまた師匠ドンチョルと同じ道を歩むようになりました。
いよいよ「象」と「星」の登場です。
「象」が登場するのは
2010年3月25日リリースのZE:Aの「All Day Long」
「星」の登場は
2010年2月3日リリースのU-KISSの「What」
あたりですね。


勇敢な兄弟が「象」と「星」と組むとこうなる

「象」と組む時の特徴
@作詞は勇敢な兄弟が単独で担当することがほとんどである。
「象」は作曲中心に参加し、ラテン、タンゴ、ジャズなど、
ブレイブサウンドに幅を持たせることになりました。
それでいて師匠ドンチョルの作風には、先日の記事でも触れた
「強烈な陰旋律ポップス」が色濃く出るため、
決して洋楽もどきに陥ることはありません。
独特の「キムチ風味」を保つことができます。

A作家性が強烈に出る。
勇敢な兄弟の曲作りは
作詞から始めていると予想されます。
まず、ストーリーや登場人物を決めて作詞し
それにイメージを広げながら曲をつけていく。
丁度、映画作りの過程に似ています。
作詞はまさに脚本作成であり、それに作曲という「撮影作業」に
よって形にしていく。
従って、まず脚本を書くのがドンチョルであることにより
「象」と組んだ時は、強烈な作家性が出ることになります。 

B歌にストーリー性があり、繊細で深みがある。
「恋愛の終焉」「人間不信」「離れていく心」「喪失感」
その世界観には厳しさがあり、時によってネガティブ。
それに耐えていく人物像には深みがあり
マンネリしそうで、決してマンネリ化しない
中毒性の繰り返しメロディは不思議と飽きることがないのです。

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ヒョリンの「ノバッケモラ

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ソンミの「ボルムダル」は
2014年の「象組」の代表的ヒット曲となりました。


それに対して・・・・
「星」と組む時の特徴

@作詞を共同で書くことが多い。
曲の原点の時点で共同作業ということは、
ドンチョルは、曲作りの半分近くは、
「星」に任せていると思われます。
「とりあえず骨子を作っておいたから
自由に発展させてみてよ」という感じでしょう。

A作家性よりも、商業性に重きを置く傾向がある。
多作の作家が、とにかく避けたい「ネタ切れ」。
似たような曲ばかりでは、売れ行きにも影響します。
「星」に自由に発想させることにより、ドンチョル自身も
新しいアイデアのヒントを掴もうとしているのでしょう。
「象」と組む時より、肩の力は抜いている感じです。
アルバムの同時収録曲が多いですが、
タイトル曲は少ないです。

Bクールな都会性のある、感情を伴わない作風
世界観が楽観的なものから悲観的なものまで、幅広くあります。
ストーリー性などの重いものよりも、曲の乗りや
アレンジ、曲のパッケージの方が目立つかもしれません。
そういう意味では、歌う女性歌手の容姿が重要な意味を持つこともあります。一見聞いていて軽やかですが、薄っぺらな印象を与えることもあります。


「象」と「星」、二つを比べると、私の個人的好みは
「象」と組んだブレイブサウンドです。
繰り返し鑑賞にも耐えられます。
聴くほどに味が出ると言ってもいいでしょう。
しかし、「星」の存在は重要で
両者の二正面作戦があるからこそ、
それぞれの特徴や変化が面白く楽しめるのです。


AOAの1st ミニアルバムは「象」と「星」の共演

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ブレイブサウンドのアルバムは「象」か「星」か
どちらか一つでまとめることが多いですが、
「タンバルモリ」が収録されているこのアルバムは
珍しく「象」と「星」が共演していて非常に興味深いです。
ブレイブサウンド分析には持って来いですね。
「イントロ」(この曲のみドンチョルは参加せず)「Choa Yo」
「You Know That (말이 안 통해)」は「星」であり、
タイトル曲の「タンバルモリ」と
傑作「私の半分(내 반쪽)」は「象」です。
特に「You Know That」と「私の半分」を聴き比べると、両者の違いが
非常によく分かります。
「You Know That」は、TVの活劇ドラマのエンドタイトルやBGMあたりには持って来いで、聴いていて軽快です。
それに対して「私の半分」は、本ブログでも紹介した
「優しい哀愁」の典型曲で、「失恋の喪失感」という重いテーマを
対照的な優しいメロディーで語りかけ、そのギャップで
感動の涙を誘うものです。
ポミニの「Only Gained Weight (살만찌고)太るばかりで」
アフタースクールの「Week (일주일)一週間」
そして、AOAの「My Soulmate (내 반쪽)私の半分」
2014年の「優しい哀愁 三部作」は
AOAで感動のフィナーレを迎えたのです。
もちろん、これは「象」の作風のほんの一部です。
「タンバルモリ」はまた別の作風ですね。

私好みの「象」ですが、こういう重みのある曲を
連続して聞くと、さすがに気が滅入ることがあります(笑)
「星」のようなリラックスした曲が、間に挟まると
より、聴いていて快いものになります。


SPICA.S は「星」と組んだが、傑作だった!!

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私が大の贔屓にしているSPICAが
キム・ボアのソロデビュープロジェクトと同時進行で
キム・ボア抜きの四人で結成したSPICA.S(スペシャル)
新たなSPICAの幕開けだ!と、私は色めき立ちましたが
作曲家の名前を見て、固まりました。
え・・・・・・? 「星」?
「星」と組むの? 何で「象」じゃないの〜〜?
少々落胆したのですが、しかぁ〜〜し!!!!
蓋を開けると、これが傑作だった!!
私の中では「星」の初ヒットと言っていいでしょう。


不思議なものですがここには納得のカラクリがありました。
「星」では珍しく、師匠のドンチョル単独で作詞しています。
ですから師匠の作家性は強烈です。
女を思いやるそぶりを見せながらも、心は離れている男。
心の奥底を見抜きながら不信感たっぷりに罵る女の怨念。
非常にネガティブなテーマです。
これを、もし「象」が担当したらどうなるでしょう。
ラテン、タンゴなど、濃〜〜い音楽で料理しようものなら
SPICAメンバーの、声量ある歌唱力とも相まって
かなりドロドロになってしまいそうです。
ところが、重くネガティブなテーマを
比較的感情の伴わない、クールな「星」が、
サラッと料理したので、非常に舌触りのよいものとなりました。
「星」の希薄さがSPICAの濃さと相性がバッチリだったのです。


新生ハロビは「象」と組んだが、これは正解だったか?

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そして、ついに新生ハロビがブレイブサウンドでカムバックです。
組んでいるのは「象」です。
SPICA.Sの「星」による驚きの傑作を聴く前ならば、
安心したでしょうが、今は、逆に不安かもしれません。

新生ハロビはクールな都会派のモデル系です。
・・・・「星」の方がよかったのではないか。
いや、どうでしょう。歌詞の内容は、結構、「乙女」してそうです。
この辺は、新生ハロビの「旧ハロビ」への
捨てきれない未練のようなものを感じます。

クールさやセクシーさに徹しきれない未練が
吉と出るか、凶と出るか。
蓋を開けるのが、楽しみですね。

ちなみに作曲家のリストは・・・・
1. HELLOVENUS
作詞:チャクン 
作曲:ミスターカン、チャクン
編曲:ミスターカン
2. 끈적끈적 (Sticky Sticky)
作詞:勇敢な兄弟
作曲:勇敢な兄弟 + 象の王国
編曲:イ・ジョンミン 象の王国
3. 위스키(Whisky)
作詞:チャクン
作曲:象の王国 + チャクン
編曲:イ・ジョンミン 象の王国
4. 끈적끈적 inst.

特筆すべきは、勇敢な兄弟が関わっているのは
タイトル曲の「クンジョク クンジョク」のみ
あとは象の王国にお任せですね。
これは新パターン。
どうなるでしょうか。




と言うわけで、作曲家「勇敢な兄弟」を「象と星」という視点で
分析してみました。
初期の作風も初々しくて好きですが、
それにも増して、現在のブレイブサウンドは
「今度は、どの歌手を料理するか」
「え? 意外にも○○に曲を提供か!
どういう作風になるだろう」
など、色々と思いをめぐらす楽しみがあり、
映画的なスリルがあって面白いです。


今回の記事を参考に
「象」と「星」の違いに注目して、聴き比べてみてはいかがでしょう。
今まで似たようにしか聴こえなかったブレイブサウンドが
全く違って聴こえてくるかもしれません。




AOAの新曲発表(11月11日)までにどうしても
語っておきたい勇敢な兄弟のこと。

次回のテーマは
「ブレイブサウンドが合わなかった
意外な女性グループについて」です。





AOAの新ミニアルバアムのハイライトメドレーが出ましたが・・・・
私は、全曲完全公開までは、ダイジェストは聴かない主義ですので
後ほど語ることになるでしょう(笑)


posted by KYcat at 23:21| Comment(2) | ブレイブサウンド
この記事へのコメント
今回も詳細な考察で、Kポ初心者の自分にはありがたいです。

勇敢な兄弟は、二人組のヒップホップアーティスト志望だったんですね。
もしお兄さんが兵役に行かなかったら、ミニスカートはこの世に生まれなかったのかと思うと、偶然って面白いなぁと。

自分は、シンサドンホレンイの作る曲も好きですね〜。というか好きで聴いてた曲が調べたらシンサドンだったということが多かったです笑

あと自分も映画好きで、ほぼ何でも見ますが特にアメリカンニューシネマ系が好きですね。タクシードライバーや真夜中のカーボーイとか。
Posted by 通りすがり at 2014年11月06日 08:30
>通りすがりさん

どうも!
コメント、ありがとうございます!

入魂の分析レポ、楽しんでいただけたようで嬉しいです。

「もしお兄さんが兵役に行かなかったら」
普通にヒップホップコンビをやって、
AOAとの出会いもなかったでしょうね。
「運命、めぐり合わせ」が作るドラマですね。

「シンサドンホレンイ」
私も好きですよ〜〜
T-ara のラビダビ
ポミニのHot Issue
そして、ヒョナの「トラブルメーカー」など
多作でありながら、名曲も多いですね。
贔屓の女性グループを担当してくれることが多いです。
最近ではFIESTARの「ハナド」
エロ規制による「歌詞書き換え」の受難にあいました(笑)

「タクシードライバーや真夜中のカーボーイ」
おお〜〜〜〜!!
趣味合いますねぇ
私も「この系列の映画」好きです♪
『タクシードライバー』なんて
セリフを覚えるまで、リピートしちゃいました(爆)

K-POPの演出家たちも、
この系列の映画を意識してるなと思える時があって、面白いです。

ブレイブサウンド好きのK-POPファンの
ハリウッド映画の趣味もシンクロしてるかもしれませんね(^-^)
Posted by KYcat at 2014年11月06日 21:42